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VO.3【孤柳】経験則を頼りに、日本料理を突き詰める





趣きある一軒家は 極上のおもてなし空間


茶の湯の確立、作陶技術の発展、浄瑠璃の誕生など。南蛮貿易が盛んに行われ、市井に多彩な文化が花開いた安土桃山時代に、商都・なにわの礎は築かれました。天下の台所を支えたのは北浜・淀屋橋一帯。江戸時代の初期の頃には米取引の中心地として隆盛を極め、幕末から明治維新の時代には渋沢栄一と並ぶ日本近代化の立役者・五代友厚が証券取引所を開設するなど、この地は現在に至るまで金融の街として関西経済をけん引しています。

その歴史をただ静かに見守り続けてきた東横堀川沿いに軒を構える「弧柳」は、和の趣きとモダンテイストが心地よく融合された一軒家で訪れる人々をおもてなしする、日本料理の名店です。入口から続く石畳は深みのある輝きを放つ能勢の黒御影石が敷きつめられ、店内に足を踏み入れれば、おだやかな川の流れときらめく水面が大きな窓越しに眺められる極上の空間が広がります。同店は2009年に北新地でオープンし、2021年にここ北浜へと移転しました。


店主の松尾慎太郎さんは法善寺横丁に暖簾を掲げる老舗「浪速割烹 㐂川」で料理人としてのキャリアをスタートさせ、10年以上の修行を経て独立。料理とお酒の組み合わせについては「あくまでバランス重視です。店では日本酒をメインに取り揃えているのですが、お酒に合わせるということに過度に偏ることなく、料理もお酒も等しく愉しんでいただくために『食中酒』としてのラインナップを意識しています」と話してくださいました。







先人の知恵に学び、素材の旨味を引き出す


 酔鯨のお酒は日々の暮らしの中で、あるいは特別な日に食卓を彩る「食中酒」を追求しています。料理に対するお酒の在り方について、奇しくも酔鯨と同じ考えを持つ松尾さんに和の一品をお願いするべく携えた日本酒は純米大吟醸《弥》。一献傾けしばらく思いをめぐらし、松尾さんは次のように印象を言葉にします。「ほどよい甘さがありながらもすっきりとした飲み口に驚かされています。開栓直後はどっしりと力強い吟醸香が際立ちますが、時間が経つほど爽やかさが増すのではないかという期待感もあります。これほどの清涼感であれば、足し算で考える味噌仕立ての料理などが特に合うのではないでしょうか」そう言って松尾さんは、かわいらしく盛りつけされた一品を供してくださいました。

その料理は「鮑の大豆煮」。鮑の肝と赤味噌、トマトを主材料に、濃厚な風味が特徴的な大徳寺納豆と合わせてピュレ状になるまで煮詰めて上掛けし、仕上げには花穂紫蘇が差し色のように美しくあしらわれています。この一品は、実は日本料理の世界で紡がれてきた歴史から着想を得たものでした。「江戸時代に人々に好まれていた『大船煮』という料理をヒントにしました。鮑や蛸などの海産物を昆布、大豆、小豆などと一緒に煮込む料理で、これらの食材が浪速から江戸へと船で運ばれていたことが名称の由来だそうです」と松尾さん。続けて、豆類と一緒に煮込むことで鮑や蛸はやわらかくなり、豆類は鮑や蛸の旨味がしみ込んでよりおいしくなるという相乗効果もあると、教えてくださいました。

味のクオリティは、確かに松尾さんの言う通り。やわらかな鮑は口中いっぱいに旨味を広げ、トマトの酸味がその旨みにさらなる奥行きを与えます。赤味噌、大豆、小豆も見事に溶け合いコク深い風味を表現。花穂紫蘇の淡い香りが絶妙のアクセントとなり、仕上げに《弥》を喉に流せばふくよかな香りが鼻腔を突き抜け、すっきりとした余韻がいつまでも心にのこります。





培った経験則は 根拠のある確かなものだった


料理とは、数値化できる化学反応なのか、経験則なのか。松尾さんはキャリアの中で、このような自問自答を繰り返すことが何度となくあったようです。例えば昆布でだしをとるとき。修業時代に教わった基本は、沸騰直前で温度を一定にしてそのまま2~3時間炊き、それから昆布を引き上げて鰹節を加えるという手法でした。しかし松尾さんは、あるときふと立ち止まり「もっと旨味を引き出せるのではないか」と、自分なりの答えを模索し始めます。

試行錯誤の果てにたどり着いた最適解は、60℃という温度でした。後々になって検証した際、旨味成分であるグルタミン酸が最も多く滲出するだしの取り方は60℃で1~2時間ほど炊き続けること、という結果がデータとしてあらわれたのでした。

「経験によって導き出した答えに数値的な裏付けが得られたことは、とても自信になりました。

私自身、感覚で料理を覚えてきた人間です。だしをとる工程では、火にかけた鍋の水面の揺れ具合や色合いの変化などを目安にしてきました。その日の天気によって、または天気の移り変わりによって再現の精度は日々変わりますし、昆布一つをとっても厚みがまったく同じということはあり得ません。だしの仕上がりは使う水にも当然ながら左右されます。疑問に思ったことはとことん突き詰め、自分なりのプロセスを経ることが何より大切だと、いつも心にとどめています」

海産物と豆類を一緒に煮込む「大船煮」も同じこと。先人たちが感覚と経験によって突き詰めた手法は、そのおいしさの根拠が現代においても客観的に証明される最適な手法であったと力説します。調理道具を選択するにしても十分すぎる情報がたやすく手に入り、スイッチ一つで火加減の調整が可能な今の世の中においても、先人たちの足跡は自身に成長をもたらす大きな糧になると、松尾さんは強く信じています。






「真味」を届ける料理人で在り続けたい


食材を調理する過程で鳴らされる音に耳を傾け、器に盛られた一品を目でじっくりと眺める。口に運ぶその前に揺蕩う香りに心を弾ませ、いざ箸を手に味わい尽くす。そしてその一つひとつは季節によって様々に移ろい、私たちに新たな喜びをもたらしてくれる。日本料理とは元来、このような幅広い愉しみ方ができるものだと、松尾さんは感じています。

しかし、誰もが忙しさにかまける現代社会においては、このようなゆとりのある愉しみ方が希薄になりつつあることは疑いようのない現実。情報が飽和し価値観が多様化の一途をたどる今、日本料理に求められることは「新味」ではなく「真味」なのかもしれません。「料理における目新しさはあくまで組み合わせの妙であり、元をたどれば素材の旨味に行きつきます。

一方『真味』はどれだけ時代が変わっても変わることのない、原風景のような普遍的なおいしさだと、私は解釈しています」この「真味」を提供することこそが、松尾さんが目指す究極の料理人像です。

「家族に『おいしい』と言ってもらえたときの喜びが、料理人としての私の原点です。自分の力で誰かに幸せになってもらうその方法として、料理が一番合っていました。本当に天職だと思っています。悩みや心配事をほんのひと時でも忘れ、明日への活力となるような時間を提供できればこんなに嬉しいことはありません」「弧柳」で腕を振るう松尾さんにとって、お客様に「おいしい」「愉しい」と心から喜んでいただけることは、何にも代えがたい一番のモチベーションです。


弧を描いて撓る柳のように―。地中深くしっかり根を張った基礎と強い風を受け流す枝に倣ったしなやかな発想で、松尾さんと「弧柳」の面々は、今もこれからも訪れる人々に幸せなひと時を提供し続けます。







店主 松尾慎太郎さん


1975年10月4日生。大阪府出身、A型。19歳から12年間、浪速割烹「喜川」で修業し、24歳で最年少板長に。独立準備期間中に、居酒屋「キッチン和」(3カ月)、「仏蘭西懐石 星家」(1年2カ月)など異ジャンルの店でも経験を積み、2009年に自店をオープン。






Koryu

弧柳

〒540-0038大阪府大阪市中央区内淡路町3丁目3-3

電話:050-3172-3474

営業時間:【昼】土曜、祝日のみ12:00〜(一斉スタート)

     【夜】18:00〜/21:00〜(一斉スタート)

定休日:日曜日





酔鯨 純米大吟醸 弥-Ya-


お酒を楽しむ時間に最適の日本酒


酔鯨の探求する酒造りのスピリッツの中でも、特に香りの自由を解き放った華やかな味わい。その情熱の欲望から生まれた『純米大吟醸 弥 〜ya〜』。高知県が開発した高知酵母「AC-95」を使用し、リンゴ様(カプロン酸エチル)とバナナ様(酢酸イソアミル)の2種類の吟醸香が特徴。それは、これまでに経験したことのない香味が、華やかで新しく、また艶やかなフルーツを連想させ、上質な飲み口が吟醸香をいっそう引き立てます。日本酒本来の輝き満たす香りの世界を表現しました。繊細で自己主張の強いその味わいは、生命力豊かな紅(くれない)をイメージし、whale tail のイメージカラーにしました。日中の喧騒から離れ、香りを楽しむ静寂な夜のひと時。その一口から扉が開く『その華やかさ。紅(くれない)のオマージュ』な時間。


酔鯨の冒険心に飛んだ香りの時間をお楽しみください。




PAIRING

酔鯨 HIGHEND COLLECTION 純米大吟醸 弥Ya  

使用米 / 山田錦(兵庫県産)

精米歩合 / 40%

内容量/720ml

価格/7,700円(税込)


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